竜の住む家

古い家だった
昭和一桁代に建てられた木造の2階建てで、熱海のなかでも一等地に建つ。
両側に城壁がそそり立つような狭い道を登りつめた奥にある屋敷だった。
ゆとりのある敷地の中に建つその屋敷の全面リフォームを請け負った。

柱と外壁を残し、中身を全部変更する工事は、今でこそビフォー、アフターでそのような大規模リフォームを見ることができるが、その当時は珍しかった。

大きな家1軒分ほどの工事費をかけてでもリフォームにこだわる施主は、その屋敷が持つメモリー(前任者から引き継ぐデーター)にこだわったのだと思う。
古い土壁を壊すところから始まった工事が数か月を過ぎたころ、棟梁が不思議な光景を見た。

ある晴れた日、周りは風もないのに一筋の突風が吹いた。
その通り道を示すようそこだけに木々が大きくゆれて、その突風は現場の方にむかっていったと言う。

次の日、朝、棟梁が現場に入ると何かが動いた、目がそれを追うと竜のしっぽのようなものが廊下の突き当たりをサッと曲がった。
あわてて、まだ根太木しか引かれていない床を落ちないように渡って
追いかけると、また廊下の先にしっぽだけが見えた。

現場で発見したものは、2階にある古い木製のガラス窓が、何かが飛び込んだように大きくひしゃげて壊れている姿だった。
石などでもないし、ましてサルなどの動物でもない、痕跡は何もないのだ。    

その日から棟梁は現場が変わったという、現場が光の海になったというのだ。
もとから棟梁はだれよりも早く現場に入り、瞑目してから仕事を始めるのが
習慣だったが、それがとてもやりやすくなったという。

そこから数十件、熱海、東京でリフォームを工事をする機会に恵まれてきたが、
ある時期から現場の空気がガラッと変わる瞬間を何度も体験している。
その時から私たちはリフォームをするという形をつかって、竜を育てているのではないかと思うようになったのです・・・

人は家に住み、物に囲まれて暮らしています。
その家や物が持つデーターは人間に大きく影響をあたえるのは当然で、研究
しがいのあるものだと思っています。









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